短編 | ナノ


▼ 特務隊×伏見






「え!?伏見さん今日誕生日なんすか!?」

思わず出した日高の声はあまりにも大きく、辺りに聞こえてしまっていた。誕生日の当の本人はそれに苛立ちを隠さずだからなんだ、早く仕事に戻れ、と一蹴しようと口を開くがまた煩い声に遮られた。

「ええええなんで言ってくれないんですか!俺プレゼント買ったのに!」
「いや別にいらねーし…」
「いや、ダメです!日頃から色んな意味でお世話になってるんで今日伏見さんのプレゼント選びにデートしましょ痛い痛い痛い」

道明寺の調子のいい言葉に伏見が呆れて言葉を失っていると誰かが後ろから道明寺の髪の毛を引っ張り伏見の横から無理矢理引っ剥がした。

「お前は軽すぎなんだ。誰にでもそんなこと言うのは別に構わないが伏見さんはやめろ。俺のものだ。」
「俺、加茂のもんになった覚えないけど」
「これ、最近買ったお香なんですが、よかったら…」
「ああ、有難う…」

あまりにも加茂の目が輝いていて伏見はめずらしく言葉を躊躇った。お香って何に使うんだとは流石に聞けなかったのだ。
そんな伏見の気遣いも虚しく最強に空気の読めない奴がズケズケと入り込んできた。

「今時お香っていつ使うんすか?伏見さんも内心困ってますよ!」
「なっ、そんなこと無いだろう!どこからどう見ても喜んで…」

パッと伏見の表情を見るとなんとも言えない表情をしており加茂は大人しくお香を持ってデスクに戻っていこうとした。が、それを伏見が呼び止めた。

「加茂、」
「は、はい」
「お香、くれないか?」
「え、」
「なんか欲しくなってきたから」
「…!」

伏見の突然のデレに喜び加茂が光速で伏見にお香を手渡した。使い方がわからないなら手取り足取りおしえますと珍しくベラベラ話す加茂に日高がお香オタクとぼそりと呟いた。

「つーか伏見さんのデレいいないいな!俺にもデレて下さいよー!」

伏見のデスクに前のめりになってガタガタと揺らす日高。デレってなんだ、いいから早く仕事しろと怒鳴っても怯まない。なんなんだ。

「あ!じゃあ頭撫でて下さい!そしたら仕事戻るんで!ね、おねがいします!一回!」

犬っころがじゃれるようにしつこくて聞かないので仕方なくわしゃわしゃと撫でた。少し恥ずかしくなってすぐにパシンと叩いて馬鹿か、と怒鳴ったが聞こえなかったらしい。気持ちの悪い顔をして自分のデスクに戻っていった。
「伏見さん、すみませんいつもあいつ、うるさくて」

さっきの騒々しい日高の声とは違う、落ち着いた声。顔を上げれば、やはり榎本。
あいつマジでどうにかならないの、と言うと注意しておきます、と困ったように微笑んた。

「あ、誕生日プレゼントと言ってはなんですが、コレ、差し上げます」

榎本が差し出したのはUSBだった。このパソコンに対応するものは結構な値段がすることを伏見は知っている。余ったので、というがそんなことあるはずがない。

「いいよ、無理に俺に何かあげなくても」
「違いますよ、伏見さんのために買ったんです。」
「え、」
「だから、受け取って下さい」

にっこりと微笑むので今度こそ断れなかった。悪い、と一言言って受け取ると満足そうに自分のデスクへ戻って日高とギャーギャー騒いでいた。主に日高の僻みの声だが。
やっと静かになったかと思えば今度は布施がパタパタとやってきた。

「……んだよ」
「お誕生日おめでとうございます!」
「…はあ。」
「そんで、これ、どうぞ!」

渡されたのは黒いファイルだった。なんだよこれ、と呟いて開いてみると、そこには八田美咲の写真がズラリと並んでいた。

「どうです!?」
「………ありがとう」

ぽつりと呟いてさっさと自分のデスクにファイルを仕舞う伏見。一瞬辺りがしん、と静まり返ったあと、道明寺がその沈黙を盛大に破った。

「録音しました!!!!」
「はあ?」

道明寺の意味のわからない言動に伏見は素っ頓狂な声を上げる。だがそんな伏見とは裏腹に特務隊の面々は歓喜の声を上げた。

「おおおおおお道明寺さんナイスです!さあそれを俺のタンマツに!」
「やだねお前こないだ飲み会ん時俺に散々文句言ってたじゃん」
「それとこれとは別でしょ!いつまでも根に持つから彼女にすぐ逃げられるんですよ!」
「はああぁ?クッソお前まじ許さねえ伏見さんのありがとうは永遠に俺のものだ」
「それ、俺に向けて言った言葉なんですけど」
「んふふ、もう道明寺さんと日高で付き合っちゃえばいいじゃないですかー。お似合いですよぉ」
「お前は黙ってろ!」

ギャーギャーと言い争う道明寺と剣四の4人。男の声なんか聴いて何が楽しいんだと頭痛がする思いだった。無視を決めこもう。深い溜息を一つこぼすと弁財が煩い連中ですね、と一言バッサリと言い放った。まだまともなのがいたのだなと少し安心した。

「べん、」
「大体人の持っているものを取りに行こうとするから争いというものは起きるんですよ。俺は欲しいものは自分で手にいれる主義なんです」

弁財は片足をついて伏見の手をとりタンマツを伏見の口元へ掲げた。

「さあ、このタンマツに向かって''弁財愛してる''と一言どうぞ」
「弁財キモい死ね」
「ハイ録音しました有難うございました!」

どうやらここにまともなやつなんかいないらしい。高望みした俺が馬鹿だった。つーか俺もだけど仕事しろよ、お前ら。
まだギャーギャーと言い争う奴等の声を無理矢理シャットアウトして自分の仕事に戻った。奴等はもうすぐ戻ってくる副長に叱られることだろう。




伏見が仕事を終えて部屋に帰ろうと寮への道を歩いていると後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえた。ちらりと振り返ると、小走りでこちらへやってくる五島の姿が見えた。

「伏見さん、コーヒーは微糖ですよね?よかったらどーぞ」
「ああ…、どーも」

ホットコーヒーだった。わざわざ伏見の分も買って追いかけてきたようで、五島は自分の分もきちんと買っていた。コーンポタージュ。
そういえば美咲がこうやって俺にコーヒー奢ってくれたこともあったなぁ、と思い出したりしていると、五島が唐突に切り出してきた。

「伏見さんて、秋山さんと付き合ってるんですよねぇ?」
「…!」

突然言われた言葉に思わず噎せそうになる。少し咳払いをしたあと、んなわけないだろと誤魔化したが鋭い五島にそんな誤魔化しが効くはずがなく、んふふ、隠さなくていいですよと笑った。

「僕、伏見さんのことが好きなんですよぉ。」
「…そんな間延びした喋りで言われても」
「んふ、すみませんつい癖で」

五島の手がコーヒーの缶を持つ伏見の手に伸びる。五島の手は温かいコーンポタージュを持っていたからかあったまっていて、伏見さんの手、冷たいですね、と笑った。

「五島、」
「ふぁー伏見さん顔も冷たいじゃないですかー死んでるんですか?」

頬に手をあてて撫でられる。押し返せばいいのだがなんだかこいつのペースに乗せられるとそれもやりづらい。やめろ、と手を叩けばその手を掴まれ五島の顔がそのまま近づいて来て、キスされた。頬に。

「…!ちょっ、何して」
「いいじゃないですかぁ、キスくらい減るもんじゃないし。」
「そうだけど、秋山がうるせーんだよ」

隠すのが面倒でついに認めてしまった。五島はそれにやっぱりね、と呟いてコーンポタージュを飲み干した。

「でも僕、諦めませんよぉ。秋山さんから必ず奪ってみせます。ガラじゃないですけど」
「…無理じゃね」
「ふふ、お誕生日おめでとうございます。来年は僕と祝ってますよ。」

伏見が僅かに一瞬だけ目を伏せて頬を紅潮させたのを五島は見逃さなかった。脈ありかなぁ、と心の中で呟く。ではまた明日、と一礼だけして自分の寮へ歩いていった。散々調子を狂わされたような気がして、伏見の心はぐちゃぐちゃだった。無意識に頭をガシガシと掻きながら舌打ちをしていた。


伏見が寮に戻ると自室のドアの前に誰か立っているのが見えた。徐々に見えてくるその人物は、やはり秋山だった。

「どうしたんだよ」
「あの、今日伏見さんと一度も話せなくて、会いに来ちゃいました。」

秋山は朝から外勤の仕事に駆り出されていて、今日の騒がしい場には居合わせていなかった。居合わせていたとしてもこいつのことだから加わって馬鹿騒ぎすることは無かっただろう。困ったようにそこで笑っているだけなのだろう。

「…何それ。」
「すみません。」
「…まあ、上がれば」
「ありがとうございます」

部屋に上がり、伏見が何もないけど、インスタントコーヒーでいい?と秋山に問うとお気遣い無く、と堅苦しい言葉で返した。それに伏見は舌打ちをし、怪訝な顔をして秋山を呼んだ。

「秋山ァ」
「は、はい」
「お前さ、俺と恋人なんじゃないの。何その堅苦しい感じ。」
「す、すみません」
「すぐ謝らなくていいし。」

コーヒーを入れながらなので秋山がどんな顔をしているのかわからない。が、きっとしょんぼりした表情ですみませんと言いそうになるのを噛み殺しているのだな、と分かってしまう。

「ほら、」

コーヒーを差し出すとありがとうございます、と微笑んで口を付ける。すると、え、これ物凄く美味しくないですか、と驚く秋山。そうなの?知らね。と伏見が吐き捨てるように言えば美味しいです、とまたぽつりと呟いた。

「あ、」

何かを思い出したように秋山が声を上げた。すると何故か伏見の背後に回って、目をつむってくださいと一言。なんで、と言いながら一応目を瞑る。
首元に鎖のような、何か冷たいものを感じた。もういいですよ、と言われて目を開けて首元を見ると、メンズ用のお洒落なネックレスがかかっていた。それは見覚えがあるもので、振り返って秋山を見つめる。

「これ、」
「はい、俺のネックレスです」
「なんで?お前これ気に入ってるんじゃなかったの」

以前非番がかぶり2人で出かけたときに私服に合わせていたこのネックレスが凄く伏見の好みで、そのネックレスくれよと言った覚えがあった。その時は秋山は嫌だと断ったのだ。なのに何故。

「そんなの、伏見さんの誕生日にあげるからに決まってるじゃないですか。これはデザイン違いで、俺のものはきちんとこっちにありますよ。だからお下がりとかではないんで、安心して下さい。」

自分の首元からジャラリとネックレスを見せ、お揃いですね、と。いい年こいてお揃いなんて、と少し呆れたが何故か悪い気分はしなかった。

「……サンキュ。」
「いえいえ。」

コーヒー、折角入れてもらったのに冷めちゃいますね、と一気に飲み干す秋山。そして明日は早いからと早々に伏見の部屋を出ていこうとした。それに伏見は待ってと小さな声で秋山を呼び止めた。

「?、なんですか?」
「キス、してほしい」
「ふ、へ!?」

ぼん、と音がなりそうなくらいに顔を赤らめる秋山。それに何故かこちらが恥ずかしくなってきて、やっぱいい、とドアを無理矢理閉めようとした。

「あっ、待っ、あいたたたたた痛い痛い伏見さん挟んでます!挟んでます!」

秋山の足を挟んでしまったらしく、慌ててドアを開く。謝ろうと口を開けば秋山が自分の口を重ねてきた。一瞬だけ。そして秋山は伏見の頭を撫でて、去っていった。

ドアをパタリと閉めて、ズルズルと座り込む。これだから、あの男は油断ならない。

「…くそ」

暫く自分の顔が熱く火照っているのに、伏見はまた頭をガシガシと掻いた。










桜様へ、誕生日を祝う特務隊×伏見で秋山落ち、こんな感じでよかったでしょうか;;;;キリリク、有難うございました!!



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